世界遺産とは?
私たちの地球には、かけがえのない文化や自然が存在します。
世界遺産は、これらを国際社会が協力して保護し、次世代へ継承していくための仕組みです。
本記事では、そんな世界遺産制度の概要から登録基準まで、旅行業界で働くプロがわかりやすく解説していきます。
世界遺産の概要
世界遺産は、1972年のユネスコ総会で採択された「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約(世界遺産条約)」に基づいて登録される、人類共通の財産です。
世界遺産は、以下の3種類に分類されます。
- 文化遺産:人類の歴史や文化を物語る建造物や遺跡など。
- 自然遺産:貴重な生態系や地形、景観など。
- 複合遺産:文化遺産と自然遺産の価値を併せ持つもの。
世界遺産登録の目的
世界遺産に登録される目的としては、主に以下の3つが挙げられます。
- 人類共通の遺産として保護する。
- 国際的な協力体制を構築する。
- 次世代への継承を確実にする。
「ただ綺麗だから」という理由ではなく、「世界遺産」という取り組みには国際規模の共通した目的が掲げられているというわけですね。
世界遺産の登録要件
世界遺産リストへの登録条件
世界遺産リストに掲載され、「世界遺産」として認められるためには、当該遺産自体や、その遺産を保有する国がいくつかの条件をクリアする必要があります。
前提条件
前提として、世界遺産リストに掲載されるためには、その遺産を保有する国が「世界遺産条約」の締結国である必要があります。
締約国は、世界遺産登録を目指す遺産をまとめた「暫定リスト」を作成しており、このリストはユネスコの世界遺産センターに提出されています。この「暫定リスト」の存在も、重要な前提条件の1つです。
また、世界遺産登録にあたっては、基本的に遺産を保有する締約国自身からの推薦が必要となります。
一部の例外を除き、所有国が定かでない遺産を推薦することはできないというわけですね。
最後に、世界遺産登録を目指す遺産は、不動産である必要があるとともに、保有国自身の法律などで保護されている必要があります。
以下に5つの前提条件をまとめました。
- 保有国が「世界遺産条約」の締結国であること。
- 各国の「暫定リスト」に掲載されていること。
- 保有国自身の推薦であること。
- 不動産であること。
- 保有国の法律等によって保護されていること。
基本的な条件
遺産が世界遺産として登録されるためには、上述の前提条件を満たした上で、さらに以下の2つの基本条件を満たす必要があります。
1. 顕著な普遍的価値(OUV: Outstanding Universal Value)を有すること。
2. 真正性(Authenticity)や完全性(Integrity)が保たれていること。
補足として、「真正性」とは、主として文化遺産に求められる「当該遺産が文化的独自性や伝統を維持しているか」という概念を指します。
具体的には、修復履歴のある遺産の場合、”修復時の工法がや構造が創建時のものを遵守しているか”などが「真正性」の有無を測る焦点です。
一方の「完全性」とは、当該遺産の保全計画や法体制、予算に人員と、世界遺産に求められる普遍的価値を構成するための要素が揃っているかが求められる概念を指しています。
文化遺産の登録基準
文化遺産は、以下の6つの基準のうち、1つ以上を満たす必要があります。
1. 人類の創造的才能を表す傑作であること。
2. 建築、技術、記念碑、都市計画、景観設計の発展に重要な影響を与えた、ある期間の価値観の交流を示していること。
3. 現存するか消滅しているかにかかわらず、ある文化的伝統または文明の存在を伝える物証として無二の存在(少なくとも希有な存在)であること。
4. 歴史上の重要な段階を物語る建築物、その集合体、技術の集積または景観の優れた見本であること。
5. ある文化(または複数の文化)を特徴づける伝統的居住形態若しくは陸上・海上の土地利用形態を代表する優れた例であること。
6. 顕著な普遍的価値を有する出来事、生きた伝統、思想、信仰、芸術的作品、あるいは文学的作品と直接または実質的関連があること。
自然遺産の登録基準
自然遺産は、以下の4つの基準のうち、1つ以上を満たす必要があります。
1. 最上級の自然現象、または、類まれな自然美・美的価値を有する地域を含むこと。
2. 生命進化の記録や、地形形成における重要な進行中の地質学的過程、または重要な地形学的、自然地理学的特徴を示す優れた例であること。
3. 陸上・淡水域・沿岸・海洋の生態系や動植物群集の進化、発展において、重要な進行中の生態学的過程または生物学的過程を示す優れた例であること。
4. その地域の生物多様性の生息域内保全にとって最も重要な自然の生息地を含むこと。
世界遺産の登録プロセス
ここでは、世界遺産条約締約国の保有する遺産が、「世界遺産」として認められるまでの過程をご紹介します。
①暫定リスト作成
まず必要となるのが、自国内で世界遺産登録を目指す遺産をまとめた「暫定リスト」の作成です。
この暫定リストをユネスコの世界遺産センターに提出することが、世界遺産登録への第一歩となります。
②推薦書の作成と提出
次に、暫定リストに掲載された物件の中から、推薦書とともに世界遺産センターに提出します。
詳細な資料や当該遺産のデータも、この時に併せて提出することとなります。
③諮問機関による審査
世界遺産センターが各国政府からの推薦書を受理した後、今度は各物件の現地調査が行われます。
調査を行うのは、自然遺産が「IUCN(国際自然保護連合)」、文化遺産が「ICOMOS(国際記念物遺跡会議)」です。
複合遺産の場合は、それぞれによる評価の後、それぞれの評価報告書が提出されます。
④世界遺産委員会による審議と決定
調査結果を受け、最終的には「世界遺産委員会」によって審議が行われます。
決議は「登録」「情報照会」「登録延期」「不登録」の4段階からなり、推薦書提出から世界遺産リストに掲載されるまでの一連の流れには、概ね1年半程度の期間がかかります。
危機遺産リスト
深刻な危機に瀕している世界遺産は「危機遺産リスト」に記載されます。
開発圧力や武力衝突、オーバーツーリズムなどの人為的要因や、自然災害、気候変動、環境変化などの自然要因により、いくつかの世界遺産は危機に晒されているのです。
本記事執筆時点(2025年2月)で、日本の世界遺産は「危機遺産リスト」に掲載されていませんが、内戦や紛争の激しい中東諸国を中心に、いくつかの遺産が危機的状況に瀕しています。
まとめ
世界遺産制度は、人類共通の遺産を守り、次世代に伝えていくための重要な仕組みです。
登録には本記事にてご紹介したような厳格な基準があり、登録後も継続的な保護と管理が求められます。
私たち一人一人が、これらの貴重な遺産の価値を理解し、その保護に貢献することが大切です。
世界遺産を訪れる際には、その背景にある深い意味や歴史に触れることで、より有意義な観光体験が得られるのではないでしょうか。