厚い氷に閉ざされた海域を突き進む、砕氷船。
名前としては聞き馴染みがあっても、実際にどのような仕組みで氷の海を進むのか、気になったことはありませんか。
人類は、この砕氷船を使いこなすことで、到達が難しい極地にも足跡を刻んできました。
本記事では、そんな砕氷船の構造と氷を砕くメカニズムについて解説します。
【砕氷船】仕組みは?
科学観測や、極地への物資輸送、そして近年では観光クルーズと、砕氷船の役割は多岐に渡ります。
そんな砕氷船は、一体どうやって氷を砕き、極地への道を切り開くのでしょうか。
その秘密は、通常の船とは全く異なる、特殊な船体構造と推進力にあります。
砕氷船の船体構造
砕氷船は、船首から氷に乗り上げ、船の重さによって氷を割り砕いて進みます。
それゆえに求めれられるのは、乗り上げるための”丸みを帯びた形状”と、氷を砕く際の外力に耐え得る”堅牢さ”です。
船体と氷の摩擦を減らすため、特殊な塗料や海水を放出する機能を備えている船もあります。
また、多くの砕氷船は、後続の船が氷の海を進む幅を確保するため、船体の全長に対する幅が(一般的な船よりも)長く設計されており、ずんぐりとした見た目が特徴的です。
船内の快適性を保つ意味で、壁やガラスが非常に厚い構造となっている点も特徴と言えるでしょう。
砕氷船の推進力
砕氷船は、力強く氷に乗り上げるため、強力なエンジンと特殊なプロペラを有しています。
同サイズの船よりも2倍以上の出力を備えていることがほとんどです。
また、一部の砕氷船は、意図して船体を傾けることで、人工的なローリング(横揺れ)やピッチング(縦揺れ)を生み出す機能も装備。
この機能は、船内の水や燃料を分散された前後左右のタンクに素早く移動させることで実現しており、より効率的な氷砕を可能としています。
【砕氷船】ポーラークラスとは?
「ポーラークラス(Polar Class)」とは、国際船級協会連合(IACS)が制定する、”海氷に対する安全性”を示す等級です。
砕氷船の耐氷性能を示す表現として、旅行パンフレット等でもしばしば付記されています。
ポーラークラスが示す性能
以下では、PC1〜PC7の7等級が示す性能を解説しています。
PC1
全ての極地氷水域を、年間を通じて運行可能。
原子力砕氷船などが、このクラスに分類される砕氷船です。
PC2
中程度の厳しさの多年氷が存在する氷水域を、年間を通じて運行可能。
多年氷とは、後述の二年氷が解けずに残った状態を指します。
日本の砕氷艦「しらせ」などが、このクラスに分類される砕氷船です。

PC3
多年氷が一部混在する二年氷の中を、年間を通じて運行可能。
二年氷とは、後述する一年氷が解けずに残った状態を指します。
PC4
多年氷が一部混在する厚い一年氷の中を、年間を通じて運行可能。
PC5
多年氷が一部混在する中程度の厚さの一年氷の中を、年間を通じて運行可能。
PC6
多年氷が一部混在する中程度の厚さの一年氷の中を、夏季または秋季に運行。
北海道で乗船可能な観光砕氷船「おーろら」は、このクラスに分類される砕氷船です。
PC7
多年氷が一部混在する薄い一年氷の中を、夏季または秋季に運行。
日本の砕氷船|観光でも乗れる?
砕氷船は、基本的に特定の国や組織だけが所有する特別な船です。
以下では、日本で運用されている砕氷艦「しらせ」と、観光砕氷船として一般人も乗船可能な「おーろら」についてご紹介します。
砕氷艦「しらせ」


砕氷艦「しらせ」-防衛省HPより引用
「しらせ」は、「南極地域観測隊」の輸送や研究を目的に建造された砕氷船です。
運用は海上自衛隊が行なっており、報道では「砕氷船」や「南極観測船」という言葉が用いられていますが、正式な表記は「砕氷艦」。
海賊やテロ行為に備えた武器庫も装備しているものの、扱い上は軍用砕氷艦(=軍艦)ではなく、あくまで南極調査を目的とした船舶です。
観光砕氷船「おーろら」
観光目的で砕氷船に乗ってみたい方は、北海道網走港発の観光砕氷船「おーろら」がおすすめです。
「おーろら」は、初めから遊覧目的で設計された砕氷船としては、世界初の船舶。
上述の「しらせ」の設計・建造を行なった「日本鋼管」が設計に携わり、室蘭市の「楢崎造船」が建造を担いました。
乗船おすすめ時期は、比較的流氷が見られやすい2月中旬から3月上旬。
「しらせ」同様、船舶の重さを利用して氷の海を突き進む姿は圧巻です。
基本的には予約が必要のため、網走方面を旅行される際は、以下ホームページからぜひご予約を!
※空席があれば、予約なしでも利用可能です。
世界の砕氷船|極地ツアー
南極などの極地探訪を可能とするため、世界では観光用途の砕氷船も多数就航しています。
例えば、シーボーン・クルーズの「シーボーンベンチャー」や、ハパグロイド・クルーズの「ハンセアティック」などが、PC6の耐氷性能を有する観光船として有名です。
そして、数ある観光砕氷船の中でも特筆すべき船が、本記事中でも既に触れたポナンの「ル・コマンダン・シャルコー」。
”ラグジュアリー砕氷船”である「ル・コマンダン・シャルコー」は、PC2の耐氷性能をフル活用し、世界初の「純粋な商業客船としての北極点到達」を成し遂げました。
本記事のまとめ
砕氷船は、特殊な船体と構造、そして圧倒的な推進力によって、極地という過酷な環境での航海を可能にする特別な存在です。
独特の構造と圧倒的な推進力で氷の海を突き進む様は、「圧巻」の一言。
観光砕氷船なら、たとえお年を召した方でも、快適に極地の探検をお楽しみいただけます。
新たな旅行の選択肢に、「砕氷船クルーズ」はいかがでしょうか。